神社解説

2. アテローム血栓性脳梗塞の臨床経過・治療方針

症状は軽微な場合から超重症まで非常に幅があります。とはいえ、狭窄血管という“爆弾”を抱えている以上、細かな検査を行い狭窄血管に対して特別な治療が必要かをしっかり判断する必要があります。
どういうことかと言えば、狭窄の程度が強い場合は脳梗塞の再発リスクが非常に高い状態と言えます。このため、狭窄度合いによっては血管を拡げる治療を追加する場合があります。頚部血管に関して言えば、拡げる方法としては次のような2つがあります。

① CEA (Carotid Endarterectomy):頚動脈内膜剥離術
② CAS (Carotid Artery Stenting):頚動脈ステント留置術

どちらを選択するかは狭窄の部位や程度(どれくらい血管内腔が詰まっているか)、患者の意向や全身状態、術者の熟達具合などによります。施設によってどちらを第1選択にするか異なるため、担当医とはよく相談する必要があります。

3. 内服薬について

内服治療はラクナ梗塞と同じく抗血小板薬の2剤併用療法(DAPT)を急性期には実施します。また循環血液量が少ない場合は症状を悪化し得るため、心機能に注意しつつ点滴で補液を実施します。また、狭窄が強いということは言わば“動脈硬化の成れの果て”でもあるので、高血圧・糖尿病・脂質異常症の合併が多いです。このため、それぞれに応じた治療薬を選択し投与を行います。

3. ラクナ梗塞で入院した後のこと

治療は抗血小板薬を用います。抗血小板薬はいくつかの薬剤がありますが、 脳卒中ガイドラインや病院での経験上、主に使うのは①アスピリン、②クロピドグレル、③シロスタゾール、④チクロピジンの4種類です。特に急性期治療は抗血小板薬2剤併用が推奨されており、特に①アスピリン、②クロピドグレルの2剤併用を行う機会が多いです。なお症状の程度や画像所見から1剤のみ使用する場合もあるため(この場合はアスピリン単剤が多いです)、専門の医師による判断が重要になります。そしてもちろん、血圧、糖尿病、脂質異常症の管理などを合わせて実施することもとても重要です。
ちなみに、抗血小板薬2剤併用で急性期治療をした後は1剤内服を続けます。では2剤使っているうちのどちらを残すべき(逆に言えば中止すべき)でしょうか。この答えですが、実はまだ良く分かっていません。今後の研究により、なんらかの指標が出ることに期待したいと思います(今の段階では主治医裁量で判断されています)。

4. 内服薬について

治療に用いる内服薬は前述の通り、①アスピリン、②クロピドグレル、③シロスタゾール、④チクロピジンの4種類です。以前の施設では基本的にアスピリンとクロピドグレルを使う場合がほとんどでした。シロスタゾールは頻脈や頭痛といった副作用が出ることがあり、そういった意味で使用に制限がかかる印象でした。
基本的に再発リスクが高い1週間程度は抗血小板薬2剤内服(DAPT:Dual Anti-Platelet Therapyと言います)とし、その後は1剤にするという戦略をとることが一般的です。1剤にする期間をいつにするかは施設ごとに考え方が違いますが、長期投与は予防効果よりも脳出血や消化管出血のリスクが高くなるため3〜6ヶ月程度までには1剤にしていると思われます。これについてもそこまでエビデンスが蓄積しているわけではないため、今後の研究結果により指針は変化するかもしれません。

3-1.症状が比較的軽い場合

脳梗塞の範囲が狭く麻痺の程度が比較的軽いなどの場合、嚥下能力に問題が無ければ抗凝固薬の内服を開始します。よく勘違いされることが多いですが、脳梗塞に対して抗凝固薬を含めた内服を開始するのは根治目的ではなく、再発予防目的です。 ここを間違えないことが重要です。逆に言えば、脳梗塞により壊れた神経細胞を元どおりに治すことは今の段階でできません(このことは私自身も脳卒中を専門に診療始めてから気がついたことでした)。
その後はリハビリテーションを行います。かつては急性期に動かすことは禁忌とされていましたが、現在は、動かさないほうが深部静脈血栓症や誤嚥性肺炎リスクを上昇させると言われています。このため、可能な限り早期からリハビリテーションを専門のスタッフとともの開始することが重要です。そしてリハビリテーションも日々進歩しており、かつてより麻痺の程度を軽減することも症例によっては可能になりました。

3-2.症状が比較的重い場合

脳梗塞の範囲が広く麻痺症状が比較的重い、嚥下状態が悪いなどの場合、すぐに抗凝固薬の内服を開始はできません。というのも、脳梗塞の範囲が広いというのはそれだけ神経細胞や血管が壊れてしまったことを意味しています。この状態で“血液をサラサラにする”抗凝固薬をすぐに開始してしまうと、脳梗塞の部位に出血が起きる可能性があります。そうなれば致命的であるため、状態が安定するまで補液や抗浮腫薬などを投与して経過をみることがあります。なお、どの程度の期間経過をみるべきかの明確な基準は今の段階でよくわかっていませんが、7日間とすることが多いようです(1980年代の論文で7日間とされており、それを踏襲していると思います)。
状態が落ち着いた段階で抗凝固薬を開始し、リハビリテーションに入ります。しかし重症の場合はなかなか機能回復が難しく、リハビリテーション病院や療養病院へ転院となるケースが大半です。なお、施設によっては急性期にヘパリン持続点滴を実施するところもありますが、現時点で有用性に疑問符が付けられているのが正直なところです(私の上司であった医師はヘパリンの有用性に疑問符を持っていたため、ほとんど実施しないのが現状でした)。

4. 内服の抗凝固薬について

内服の抗凝固薬はワルファリンかDOAC (Direct OralAntiCoagulants) に分けることができます。私が学生の頃はDOACのことは講義にも登場せず、もちろん試験にはまったく出ませんでした。今や医学生なら誰でも知っているレベルの薬剤であり、日々の進歩を強く感じています。かつて内服の抗凝固薬はワルファリン一択でしたが、2011年にダビガトランというDOACが採用されてから現在4種類のDOACが採用されています。

ワルファリンはPT-INRという指標を用いて内服量を調整する必要があります。ワルファリンは夕食後内服としている医師が多いと思いますが、これは朝の採血結果により投与量をその日のうちに調整できるようにする配慮です。心房細動がある70歳未満の方ではPT-INR 2.0-3.0の範囲内で投与量を調整します。70歳を超えた場合はPT-INR 1.6-2.6の範囲内で投与量を調整します。なおワルファリンはビタミンK拮抗薬であるため、ビタミンK含有が多い食品(納豆が有名です)を摂取してはいけません。またワルファリン内服適応はやや複雑なので、必要に応じて医師に問い合わせる必要があります。

一方のDOACはワルファリンのような血中指標による調整は不要です。腎機能による調整は必要ですが、頻回に採血をして投与量を決定する必要はありません。多くの試験でワルファリンとの非劣勢が示されており、現在の心原性脳梗塞予防を語る上で欠かすことができない薬剤です。そしてワルファリンに比べて制約が少ない薬剤でもあるので、心房細動が今後増えるにつれて処方頻度が増していく薬剤です。まだ2011年に最初の論文が発表された新しい薬剤であるため、今後もいろいろなデータが発表されると思います。その動向にも注目していきたいものです。

まとめと次回予告

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