復習】DOAC(ドアック)とは?基礎知識を知ろう
前回、心原性脳梗塞の予防に重要な薬剤としてDOAC(ドアック:Direct Oral AntiCoagulants)を紹介しました(参考「脳梗塞治療と薬剤選択vol.4」)。DOACとは、日本語では直接経口抗凝固薬と表記され、凝固因子を直接阻害することのできる経口投与薬の総称です。 2009年にダビガトラン(商品名:プラザキサ)が論文で発表されて以降、アピキサバン(商品名:エリキュース)、リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)、エドキサバン(商品名:リクシアナ)の合計4種類のDOACが登場して日本で使用されています。ちなみに、かつてはNOAC(Novel Oral AntiCoagulants)と呼ばれていましたが国際止血学会の推奨でDOACという呼称で統一されました。
2.DOACとワルファリンの違い、使い分けは?
2-1. 作用機序の違い
DOACとワルファリンはともに抗凝固薬という分類です。人間の身体には血液凝固カスケードという血液が固まるようにする反応経路があります。抗凝固薬はその反応経路の一部を止めることで「血液が固まりにくい=血液がサラサラになる」という作用を示します。 DOACはダビガトラン(商品:プラザキサ)が直接トロンビン阻害薬、その他のDOACは第Xa因子阻害薬であり、一方でワルファリンはビタミンKが作用する部位を阻害するビタミンK阻害経口抗凝固薬です。それぞれの薬剤が作用するポイントが違います(図1・表1)。
図1. 血液凝固カスケードと抗凝固薬の作用点

表1. ワルファリンとDOACの早見表
商品名 | ワーファリン | プラザキサ | イグザレルト | エリキュース | リクシアナ |
---|---|---|---|---|---|
一般名 | ワルファリンカリウム | ダビガトラン | リバーロキサバン | アピキサバン | エドキサバン |
作用 | ビタミンK拮抗 | 抗トロンビン | Xa因子阻害 | ||
代謝経路 | 主に肝代謝 | 主に腎代謝 | |||
剤形 | 粉砕あり | カプセル製剤 | 細粒製剤あり | - | DO錠あり |
2-2. 代謝経路の違い
DOACは主に腎臓にて分解され、ワルファリンは主に肝臓の酵素により分解されます。このため現時点は、高度腎機能障害がある患者に抗凝固薬を使用するときはワルファリンが選択され、DOACは禁忌とされています。ただし、そもそも高度腎不全患者や 透析患者に抗凝固薬療法を実施すべきかの議論は依然として決着が付いていません(使わない方が予後は良いかもしれないとの意見があります)。専門の医師が患者状況やご家族の意向を踏まえて処方すべきです。
どの DOACを選択するかも、患者の病状、年齢、体格、腎機能や社会的状況(介護者の有無や病識の程度)により異なります。担当医は患者、ご家族の状況を踏まえて決定しているので、疑問点があれば疑義照会しましょう。
2-3. 適応疾患について
DOACで注意すべきは「非弁膜症性心房細動(Non-valvular atrial fibrillation:NVAF)」に対して適応があることです。心臓弁膜症で弁置換術を受けた患者にDOACは適応がありませんのでご注意ください(ワルファリンは適応があります)。
2-4. 剤形の違い
脳卒中患者は嚥下障害を有することが多く、どのような剤形があるかは薬剤選択において非常に重要です。ワルファリンは粉砕可能で、DOACも種類によってOD錠や顆粒製剤があり飲みやすさが考慮されていると言えます。
2-5. 拮抗薬、中和剤について
ワルファリンには拮抗薬、DOACの中ではダビガトランのみ中和剤があります。ワルファリンはビタミンK拮抗薬であるため、緊急時にビタミンK製剤(商品名:ケイツーN)の静注を行うことがあります。また2017年に発売されたプロトロンビン複合体製剤(商品名:ケイセントラ)がワルファリンの拮抗薬として注目されています。
ダビガトランにはイダルシズマブ(商品名:プリズバインド)という中和剤がDOACの中で唯一存在します。これらの拮抗薬、中和剤をクリニックで使うことはまずあり得ず、然るべき病院にて使用されます。緊急時に使用し、かつ副作用のことも留意すべきであるため専門の医師が適応を判断する必要があります。
3. DOAC服用時の注意点
DOAC服用時、高齢者や腎障害を有する患者などでは、出血リスクが高まる場合があります。ワルファリンに比べるとリスクは低いといえますが、特に消化管出血や頭蓋内出血は命に関わる重大な危険性があるため、注意が必要です。
軽度の出血の場合は減量・休薬等で対応し、適切な抗血栓療法の継続を考慮します。また、中等度から重度の出血の場合は休薬、活性炭投与、中和、⽌⾎、輸液、出⾎性脳卒中時の⼗分な降圧などで対応します。
4. DOACを使用しての印象とワルファリンとの使い分け
DOACが登場して以降、心原性脳梗塞治療は大きく変わりました。登場して10年が経過しているため、徐々にエビデンスが蓄積されて安全性についても検討されています。ワルファリンに比べて、出血性合併症の発症頻度が低いため、DOACの適応があればDOACを処方する機会が増えていますし、逆にワルファリンを新規で処方する機会は減っているかもしれません。
ただ、ワルファリンは決して廃れる薬剤ではありません。今なお弁置換術を受けた患者の抗凝固薬としては使われていますし、腎機能障害患者にも使用することができます。また費用がかなり安いことも今後の医療費増大に関しては重要なのかもしれません(個人的には費用面はそこまで意識していないのが現状ですが…)
最終的には、患者ごとにしっかり適応を見極めることが大事です。そのためには最新の知識を得られるようアンテナを張っておくことが重要です。