「浮腫(むくみ)」の副作用が問題になります。この副作用は全てのCa拮抗薬に共通するもののため、浮腫が治療上も問題になる場合には、Ca拮抗薬からARBやACE阻害薬などにカテゴリごと薬を切り替えるのが一般的です。しかし、Ca拮抗薬で治療を継続したい場合には、「シルニジピン」へ変更するという方法も選択肢になります。
- 「シルニジピン」への変更で、全患者の浮腫が解消した。
- 「シルニジピン」への変更で、降圧治療への影響はなかった。
Ca拮抗薬で「浮腫(むくみ)」が起こるメカニズム
Ca拮抗薬は、細胞膜の膜電位依存性Caチャネルに作用することで血管収縮を抑制し、末梢血管抵抗を弱めて血圧を下げる効果を発揮します。このとき、末梢静脈よりも末梢動脈をより強く拡張させるために、末梢に流れ込む血液(動脈)に対して中枢に戻っていく血液(静脈)が少なくなり、毛細血管にかかる圧が高まります。これによって、血液中の成分が毛細血管の外に漏れだし、浮腫が生じることになります。
この浮腫は、「循環体液量の増加」ではなく「毛細血管にかかる圧が強くなっている」ことによって起こるため、利尿薬を使ってもあまり改善しません。そのため、降圧薬として利尿薬を併用していても起こることがあります。
また、この浮腫は作用メカニズム上、Ca拮抗薬では避けられない副作用のため、どのCa拮抗薬を使っていても起こることがあります。このことから、Ca拮抗薬で浮腫が問題になる場合には、使う薬をARBやACE阻害薬など別カテゴリの主要降圧薬に切り替えるのが一般的ですが、左室肥大や狭心症を伴う高血圧にはCa拮抗薬が積極的適応1)のため、安易にカテゴリを切り替えられないこともあります。その場合に選択肢となるのが、この「シルニジピン」への変更という方法です。
「シルニジピン」で浮腫が起こりにくいのは何故?
お題論文は、「アムロジピン」で浮腫が起きてしまったときに、薬を「シルニジピン」に変更することで、治療効果に影響することなく浮腫を解消できた、とする報告です。これは、Ca拮抗薬で起きた浮腫を、薬のカテゴリを変更することなく同じCa拮抗薬内の変更だけで解決できる可能性を示唆する重要なエビデンスと言えます。このようなことが起こる理由としては、「アムロジピン」と「シルニジピン」が作用するCaチャネルの「型」の違いが関係していると考えられます。

Ca拮抗薬の降圧効果は、主に心筋や血管平滑筋にある「L型」のCaチャネルに作用することで発揮されますが、Caチャネルには他にも腎臓の糸球体にある「T型」、交感神経終末にある「N型」があります。Ca拮抗薬の中にはこれら「T型」や「N型」にも作用することで、独特の付加効果を発揮するものがあります2)。
「シルニジピン」も、「L型」のほかに「N型」のCaチャネルにも作用することで、交感神経の興奮による影響を小さく抑えることができるCa拮抗薬です。「シルニジピン」は、この交感神経の興奮抑制作用によって、末梢にある毛細血管(静脈側)の収縮をある程度は軽減するため、静脈と動脈のバランスが崩れにくい傾向にありますが、これが「シルニジピン」で浮腫が起こりにくい理由と考えられています。
そのため、「アムロジピン」などのCa拮抗薬で浮腫が起きたものの、引き続き別のCa拮抗薬で治療を続けたい…という場合には、「シルニジピン」は良い選択肢になると言えます。ただし、「シルニジピン」もCa拮抗薬としての作用を持つため、浮腫が起こらないわけではありません3)。あくまで、「L型」にしか作用しないCa拮抗薬に比べるとリスクが低いだけ、という認識で扱う必要があります。