慢性腎臓病(CKD)とは
慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)は、腎障害が慢性的に持続する疾患の全体を意味するもので、以下の場合、CKDと確定診断されます。1)
- 尿異常(蛋白尿)、画像診断・血液所見・病理所見等で腎障害の存在が明らか
- GFRが60(mL/分/1.73㎡)未満
※GFR:「糸球体ろ過量」のことで、腎機能の指標です。
CKDのリスク因子としては、以下です。
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症(高脂血症)
- 喫煙
- メタボリックシンドローム
また、CKDの初期にはほとんど無症状のため徐々に腎機能が低下していきます。
腎臓は老廃物の排泄や骨代謝、造血器機能調節といった様々な役割を担っているので、CKDによって腎機能低下が進行してしまうと、
といった様々な症状が現れます。
従って、早期からリスク因子である原疾患の治療、症状に対する対処療法と共に、生活習慣改善が重要です!
基本的には合併症に準じた治療が行われ、例えば、高血圧を合併している場合には、腎保護作用も期待されているACE阻害薬やARBが推奨されています。1)
また、近年ではSGLT2阻害薬の有効性が示されていることから、フォシーガ(ダパグリフロジン)などが併用されることも多くなってきました。
フォシーガ(ダパグリフロジン)の作用機序【糖尿病/心不全/CKD】
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CKDが進行すると、透析が必要な状態になりますが、透析を伴うCKDではリンの排泄がうまくできないことから、特に高リン血症に注意する必要があります。
これまで、CKDの高リン血症に対しては、食事制限の他、炭酸ランタンやカルシウム・鉄製剤・セベラマーなどのリン吸着薬による治療が一般的でした。
木元 貴祥
今回ご紹介するフォゼベルは、リンの吸収を抑制することで、血中のリン濃度を減少させる薬剤です!
ちなみに、CKDの症状の一つである腎性貧血に対しては
- エリスロポエチン製剤:ネスプ(ダルベポエチン)等
- HIF-PF阻害薬:エベレンゾ(ロキサデュスタット)等
が使用されます。
エベレンゾ(ロキサデュスタット)の作用機序:類薬との比較・違い【腎性貧血】
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それではここから、腸管におけるリンの吸収のメカニズムを見ていきましょう!
腸管におけるリンの吸収:傍細胞経路
食物に含まれるリン(リン酸塩)は腸管上皮細胞の隙間(“タイトジャンクション”と呼びます)である傍細胞経路から吸収されると考えられています。2)

タイトジャンクションには、ジッパーみたいな役割を担うクローディンと呼ばれるタンパク質が存在していて、必要に応じてクローディンが構造変化することでタイトジャンクションの開閉を行っています。
また、腸管上皮細胞にはナトリウムイオン(Na+)と水素イオン(H+)を交換するナトリウムイオン/プロトン交換輸送体3(NHE3)が存在していて、Na+とH+の吸収・排泄を調整しています。
通常、NHE3によってH+が腸管内に排泄されることで、腸管上皮細胞内のpHは中性付近に保たれていて、その場合、クローディンは構造変化を起こさないため、タイトジャンクションが開いている状態が保たれています。
フォゼベル(テナパノル)の作用機序:NHE3阻害薬
フォゼベルは腸管上皮細胞のNHE3を選択的に阻害する薬剤です。
NHE3が阻害されることで、Na+の吸収が抑制され、H+の排泄が抑制されます。その結果、腸管上皮細胞内のpHが酸性側に傾き、クローディンの構造変化を引き起こします。
クローディンが構造変化を引き起こすと、タイトジャンクションが閉じられてしまい、腸管内のリン酸塩が傍細胞経路から吸収されなくなってしまいます。2)

木元 貴祥
タイトジャンクションからのリン酸塩の吸収が抑制され、高リン血症の改善につながるといった作用機序ですね。
また、フォゼベル自身は腸管からほぼ吸収されることがないため、全身性の作用を示すことなく、腸管選択的に作用すると考えられています。
ちなみに、Na+と水分は同じような動き方をするため、Na+の吸収が抑制されると、水分の吸収も抑制されます。その結果、腸管内には水分が滞留しますので、便秘型のIBSに対しても効果が期待されているというわけです(国内ではIBSは未承認。米国ではIBS-Cに対してIBSRELAの商品名で承認)。