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パルプロ酸について

何のお薬?処方目的は?
A適応症は「各種てんかん(小発作・焦点発作・精神運動発作ならびに混合発作)およびてんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の治療」、「躁病および躁うつ病の躁状態の治療」、「片頭痛発作の発症抑制」です。てんかん、躁状態の場合は通常1日400~1,200mg用いますが、片頭痛の場合は1日400~800mgで用い、1日量は最大1,000mgです。患者さまからしっかり情報収集し、個々に応じた薬効説明を行いましょう。
Q作用機序は?
A本剤の投与により脳内のGABA濃度、ドパミン濃度の上昇と共に、セロトニン代謝が促進されることが認められており、本剤の抗てんかん作用は神経伝達物質の作用を介した脳内の抑制系の賦活作用に基づくと推定されています。抗躁作用、片頭痛発作の発症抑制作用についてもGABA神経伝達促進作用の寄与によるものと考えられています。
Q「デパケンR」と「デパケン」
AデパケンRは徐放錠のため1日1~2回服用ですが、普通錠のデパケンは1日2~3回の服用が必要です。また、デパケンは吸湿性があるため一包化が不可能ですが、デパケンRは防湿効果があるため一包化可能です。また、デパケンRは食事の影響が少ないのに対して、デパケンはバイオアベイラビリティーに差はないものの、食事の影響を受けて吸収がゆるやかになります。デパケンのTmaxは、食後服用だと3.5時間程度ですが、空腹時投与では1時間程度と短くなります。
Q「デパケンR」と「セレニカR」の違いは?
A徐放性製剤ですが、これらは食事の影響を受けないようにすること、血中濃度の日内変動が大きくならないようにすること、などを目的に開発されています。この2つの徐放性製剤は体内動態が異なります。デパケンRは9時間で80%が溶出するのに対し、セレニカRは14時間で80%が溶出します。このため、デパケンRは1日1~2回、セレニカRは1日1回と、服用回数が異なります。しかし、単純に「徐放性製剤で血中濃度を安定化させれば治療効果が高まる」とは言えず、普通錠から徐放性製剤に切り替えたことで、てんかん発作を起こした事例も報告されており、切り替え時には十分なモニタリングが大切です。また、前述の通りデパケンR錠は防湿効果があるため一包化が可能ですが、セレニカR錠は吸湿性があり一包化できません。顆粒剤に関しても保存状態に注意が必要です。
Q飲み忘れたら?
A飲み忘れた場合は、発作を起こす恐れがあるため、気づいた時点でできるだけ早く1回分を服用します。1日1回服用中の患者さまでは、次回の服用は翌日のいつも通りの時間に行います。1日2回服用中の患者さまでは、次の服用まで6時間以上はあけるよう指導しましょう。
Q残渣に注意!
AデパケンRはマトリックスタイプの徐放錠として製剤設計されており、外側の糖衣は消化管内で短時間で消失して有効成分のバルプロ酸が水に不溶のマトリックスから徐放性被膜を介して徐々に放出されるしくみになっています。そのため、糞便中に見られる残渣は主薬が放出された後の抜け殻であり、錠剤の形状が一見保たれていても服用してから約10時間以上経っていればバルプロ酸の吸収には何ら問題はありません。

A:一般名処方では徐放錠Aと徐放錠Bの区別がつかないため、基本的には疑義照会が必要となります。

日本薬局方では、デパケンR錠の一般名はバルプロ酸Na徐放錠A、セレニカR錠の一般名はバルプロ酸Na徐放錠Bと定められていますが、厚生労働省が定めている一般名処方マスタではAとBの区別はなく、単純にバルプロ酸Na徐放錠の記載になっています。

一般名処方マスタ(処方箋に記載する一般名処方の標準的な記載(一般名処方マスタ)について(令和5年6月16日適用))より

バルプロ酸Na徐放錠100mgの記載の場合、先発品はデパケンR錠100mgのみなので問題ないのですが、バルプロ酸Na徐放錠200mgと記載された場合はデパケンR錠200mgとセレニカR錠200mgのどちらを指しているのか簡単に判断することができません。(セレニカR錠400mgには後発品が存在しないため、一般名処方マスタにはバルプロ酸Na徐放錠400mgが存在しません)

一般名処方基準名(局方名)用法先発品名後発品名
バルプロ酸Na徐放錠100mgバルプロ酸ナトリウム徐放錠A100mg1日1~2回デパケンR錠100mgバルプロ酸ナトリウムSR錠100mg「アメル」
バルプロ酸ナトリウム徐放錠A100mg「トーワ」
バルプロ酸Na徐放錠200mgバルプロ酸ナトリウム徐放錠A200mg1日1~2回デパケンR錠100mgバルプロ酸ナトリウムSR錠100mg「アメル」
バルプロ酸ナトリウム徐放錠A100mg「トーワ」
バルプロ酸ナトリウム徐放錠B200mg1日1回セレニカR錠200mg
(バルプロ酸Na徐放錠400mg)
※後発品が存在しないため一般名マスタには存在しない
バルプロ酸ナトリウム徐放錠B400mg1日1回セレニカR錠400mg

スクロールできますバルプロ酸徐放錠の一覧

用法で判断する場合

一般名処方マスタのバルプロ酸Na徐放錠200mgの備考欄には「先発品はデパケンR錠200mg/セレニカR錠200mg(セレニカの代替は1日1回用法に限る)」と記載されているため、保険上1日2回の用法であればデパケンR錠(バルプロ酸ナトリウム徐放錠A)と判断することも可能ですが、デパケンR錠(バルプロ酸ナトリウム徐放錠A)とセレニカR錠(バルプロ酸ナトリウム徐放錠B)では薬物動態が異なるため、そのほかの情報等で確定できない場合は疑義照会を行うことが望ましいと考えられます。

また、1日1回の用法で処方されている場合は当然区別できません。

一般名処方が発行されていることで判断する場合

また、一般名処方加算の考えでは後発品が存在する医薬品のみが一般名処方の対象であるため、一般名処方されている時点でバルプロ酸ナトリウム徐放錠A200mg(デパケンR錠200mgもしくはその後発品)という考え方も可能ですが、一部で後発品の有無に関わらず一般名処方を発行されるケースも存在することを考慮する必要があります。

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