神社解説

カテーテル治療

3-1.症状が比較的軽い場合

脳梗塞の範囲が狭く麻痺の程度が比較的軽いなどの場合、嚥下能力に問題が無ければ抗凝固薬の内服を開始します。よく勘違いされることが多いですが、脳梗塞に対して抗凝固薬を含めた内服を開始するのは根治目的ではなく、再発予防目的です。 ここを間違えないことが重要です。逆に言えば、脳梗塞により壊れた神経細胞を元どおりに治すことは今の段階でできません(このことは私自身も脳卒中を専門に診療始めてから気がついたことでした)。
その後はリハビリテーションを行います。かつては急性期に動かすことは禁忌とされていましたが、現在は、動かさないほうが深部静脈血栓症や誤嚥性肺炎リスクを上昇させると言われています。このため、可能な限り早期からリハビリテーションを専門のスタッフとともの開始することが重要です。そしてリハビリテーションも日々進歩しており、かつてより麻痺の程度を軽減することも症例によっては可能になりました。

3-2.症状が比較的重い場合

脳梗塞の範囲が広く麻痺症状が比較的重い、嚥下状態が悪いなどの場合、すぐに抗凝固薬の内服を開始はできません。というのも、脳梗塞の範囲が広いというのはそれだけ神経細胞や血管が壊れてしまったことを意味しています。この状態で“血液をサラサラにする”抗凝固薬をすぐに開始してしまうと、脳梗塞の部位に出血が起きる可能性があります。そうなれば致命的であるため、状態が安定するまで補液や抗浮腫薬などを投与して経過をみることがあります。なお、どの程度の期間経過をみるべきかの明確な基準は今の段階でよくわかっていませんが、7日間とすることが多いようです(1980年代の論文で7日間とされており、それを踏襲していると思います)。
状態が落ち着いた段階で抗凝固薬を開始し、リハビリテーションに入ります。しかし重症の場合はなかなか機能回復が難しく、リハビリテーション病院や療養病院へ転院となるケースが大半です。なお、施設によっては急性期にヘパリン持続点滴を実施するところもありますが、現時点で有用性に疑問符が付けられているのが正直なところです(私の上司であった医師はヘパリンの有用性に疑問符を持っていたため、ほとんど実施しないのが現状でした)。

4. 内服の抗凝固薬について

内服の抗凝固薬はワルファリンかDOAC (Direct OralAntiCoagulants) に分けることができます。私が学生の頃はDOACのことは講義にも登場せず、もちろん試験にはまったく出ませんでした。今や医学生なら誰でも知っているレベルの薬剤であり、日々の進歩を強く感じています。かつて内服の抗凝固薬はワルファリン一択でしたが、2011年にダビガトランというDOACが採用されてから現在4種類のDOACが採用されています。

ワルファリンはPT-INRという指標を用いて内服量を調整する必要があります。ワルファリンは夕食後内服としている医師が多いと思いますが、これは朝の採血結果により投与量をその日のうちに調整できるようにする配慮です。心房細動がある70歳未満の方ではPT-INR 2.0-3.0の範囲内で投与量を調整します。70歳を超えた場合はPT-INR 1.6-2.6の範囲内で投与量を調整します。なおワルファリンはビタミンK拮抗薬であるため、ビタミンK含有が多い食品(納豆が有名です)を摂取してはいけません。またワルファリン内服適応はやや複雑なので、必要に応じて医師に問い合わせる必要があります。

一方のDOACはワルファリンのような血中指標による調整は不要です。腎機能による調整は必要ですが、頻回に採血をして投与量を決定する必要はありません。多くの試験でワルファリンとの非劣勢が示されており、現在の心原性脳梗塞予防を語る上で欠かすことができない薬剤です。そしてワルファリンに比べて制約が少ない薬剤でもあるので、心房細動が今後増えるにつれて処方頻度が増していく薬剤です。まだ2011年に最初の論文が発表された新しい薬剤であるため、今後もいろいろなデータが発表されると思います。その動向にも注目していきたいものです。

まとめと次回予告

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